男兄弟と私

今日はいつもよりも早く帰宅した。

するとテーブルに5冊の本が置いてあった。
家内に聞いた。「この本はどうしたの?」。

するとこう返事が返ってきた。
「修大がやんくん(長男智哉のニックネーム)に読んで欲しいと図書館から今日借りてきた」。

ミハエルの「天才、それは努力する才能」
高橋尚子さんの「挫折からの復活」


修大に聞いた。
「この本は読んだことがあるのか?」と。
するとこう返ってきた。
「ミハエルの本だけは読んだ。凄いよパパ、ミハエルの本は全部本当のことが書いてあった」と言っていた(笑)。
ふと思い出した。兄弟揃ってミハエルの本をたくさん読んでいた事を。


一方、次男真也は言葉には出さないが智哉のことを随分と心配しているようだ。
真也にこう言ってやった。
「心配するな、やんくんはちゃんと自分の意思で乗ると言ってくるから」と。
すると嬉しそうに、「うん」とうなずいた真也がいとおしくてたまらなくなった。
真也はいつもそうだ、小さい時から。
私が智哉を叱るとまるで自分が叱られているかのように泣いていた。
今春の智哉の留学の時もそうだった。旅立つ智哉に一言も語ることなく、出発する智哉のことを見ることができず一人でトイレで泣いていた。

そんな3人の男兄弟を見守ることができる私は幸せものだ。


先ほどフォーミュラスクールの校長先生から私の携帯電話に電話があった。
「昨日はどうでしたか?」と。
随分とご心配をお掛けしてしまった。

実は鈴鹿の温泉にその後、行った。
智哉と温泉に行くのはモータースポーツに出逢う7年前以来のことだった。
塩サウナで智哉にこう言った。
「智哉、背中をパパが塩でもんでやる」。
「いいか、その後でパパの背中も塩もみするんだぞ」と。

智哉の大きくなった背中を感じたし、智哉に背中を揉んでもらっている時は何か心の中の岩が溶け出すような感覚になった。

すると智哉は私にこんなことを呟いた。
「普通の高校生になりたい。普通に友達と遊んで、普通に大学に行って、普通の大人になりたい」と。

そんなことがあったことを正直に校長先生にお伝えした。
電話の向こうで涙ぐんでいらっしゃる校長先生を感じ、私も涙が出てきた。

思い返せばこの7年間、智哉とは親子関係になかった。
なぜなら私はこの7年間智哉に「普通になるな」と教育してきた。「普通の人たちと同じことをしていれば普通の人生になる。F1ドライバーは普通の人ではなれない」とそんなことを言い続けてきた。

私はそんな父親だった。